page_top
人気記事ランキング

新規採用された68歳の向上心を見習いたい 高齢者採用を実践する地方企業の目の付けどころとは。

吉田久志
記者、編集者・日本語教師
2018年07月13日

大事なのは「向上心」。地方企業が求めるシニアの人材条件とは

少子高齢化の影響が大都市以上に深刻な地方では、企業のセカンドキャリア受け入れへの向き合い方は真剣です。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が行うシニア雇用促進支援「65歳超雇用推進助成金」などを活用して、人材の受け入れを模索しています。また65歳以上の就業に関する今後の国の法整備を見据えて、ハローワークや商工会議所、商工会も、企業への助成制度の案内を進めてシニアの雇用促進に努めています。

シニア未経験者の就業については、誰でも良いわけではありません。自身の健康管理ができるのは当然ですが、何より「向上心」を持ち続ける人材を求めています。自身の人生経験を若い世代に役立ててもらったり、自らも若者のアイデアや行動などを吸収して工夫する意欲を持ち、世代間の刺激し合いや調和の意識が高いシニアを、実際に戦力としている企業があります。

「当社は従業員30人の規模ですが、現状維持は衰退と同じ。企業は事業の発展を常に追求しなければならない。だからこそ人を大事にしたい。雇用を1人でも増やす努力は、企業の成長実現でもあり、地域社会への貢献でもある。今後の社会構造を見据え、やる気あるシニアの人材を大事にするのは必然です」。こう話すのは、長野県東御市の有限会社、道の駅雷電くるみの里の代表、清水俊文社長(以下、駅長=施設代表の通称)。

全国に1千以上ある道の駅の中で、くるみの里は常に人気投票上位にあります。創業16年目の今年までに60歳以上のシニアを新規で2人採用し、継続雇用の2人と清水駅長も含め60歳以上就業比率は全体の約16パーセントになります。

同道の駅の魅力づくり、事業発展に、シニアの力をどう活かしているか、将来を見据えた取り組みをどう進めているのか、地方の知恵を伺いました。

地域の中小規模高齢農家200人以上が売り上げ向上の支え

くるみの里では、数年前に新規採用した現在68歳の女性スタッフが、食事処の人気商品「手打ちそば」の打ち手として活躍しています。清水駅長は「60歳超で、そば打ち経験もありませんでした。しかし、必ず覚えるという意欲に期待しました。1年以上かかりましたが、今はしっかり仕事をしています」。打ち場からガラス越しに、信州そばの熟練手打ち職人のような姿を、お客さんへ見せています。

くるみの里は地元産そば粉の手打ちそばを始めるに当たって、近隣名店の職人の指導を受け食事処スタッフがそば打ちの技を身につけるようにしました。今では熟練スタッフが後進に技をつなぐ形が整いました。その中で、この女性スタッフも努力し腕を磨いたそう。

向上心を持って新しいことに挑む姿勢が、他のスタッフの刺激になっています。そば打ちでは、他に現在67歳の継続雇用者も活躍しています。2人とも1年1品の新メニュー開発などでも、若いスタッフと力を合わせており、これまでにホエー豚の生姜焼きや山賊焼など人気メニューが生まれています。

シニア世代と若年世代のバランスは大事だが…

くるみの里では、地元産の農産物を使った「食」は事業の大きな柱です。清水駅長によると、同様の食品加工を行ってきた東御市内のある事業所では、従業員がほぼ全員というくらい高齢化して、今後の事業継続が難しくなってきているそうです。「少子高齢化の中では、年齢からみた従業員構成は必然的に変わるでしょう。

それでも事業継続できるバランスの見極めにも努めています」と気を配っています。その一方で、将来シニア世代を迎える従業員が長く頑張ってもらうことも大事と、社規の柔軟な運用も行っています。

清水駅長は「当社の就業規則は65歳定年ですが、勤務評価が良かったスタッフが定年を迎えた際、再雇用でなく社員継続にしました。今年も2パーセント昇給になります」。これまで実績を上げてきたスタッフの待遇を、年齢にかかわらず維持する工夫も始めているのです。またスタッフの健康を守るため、人間ドック受診やインフルエンザ予防接種などを全額会社で負担するなど、現在活躍するスタッフの加齢なども見据えて対策しています。

また、くるみの里では、年齢にかかわらず働く意欲を高めてもらうための工夫として、同規模の企業では稀という「社員持株制度」を2015年に導入しました。これにより経営にも関わるのは66歳、56歳、50歳、44歳と現在4人。清水駅長によると、今年も57歳、51歳の2人が持株を希望しており、やる気あるスタッフの力を今後も経営に活かしたいとのことです。

地域の中小規模高齢農家200人以上が売り上げ向上の支え

くるみの里は東御市の魅力発信拠点の役割も果たしながら、来訪者数と売り上げを創業から順調に伸ばし続けています。初年の年商約2億円から発展させ、2017年3月末に売り上げ6億円超を達成。2018年3月末にも年商6億円超を達成しました。

集客につなげる魅力づくりには地元産農産物の直売コーナーが一役買っており、品揃えの良さが大きな目玉です。2003年創業以来「年間通して地元産を並べる工夫」に取り組んでおり、リゾート地軽井沢の長期滞在者や観光客、近隣の生活者まで幅広い客層が、新鮮で安心安全な農産物を求めて立ち寄っています。

これを支えるのは道の駅直売所の農産物出荷会員農家320人。このうち農産物10万円分以上の実出荷の会員は約250人ですが、その80パーセント超が中高年農家だと清水駅長はいいます。

直近の農林業センサス(2015年、農水省)によると、同市の総農家数は2369戸、耕地面積2ヘクタール未満が856戸と中山間地農業の特徴が表れています。65歳以上農業従事者は1477人(2016年東御市の統計)いますが、その高齢農家たちが農産収入を得る場の一つとして、くるみの里が関わっています。

清水駅長は「生産量日本一の特産のくるみなど、道の駅を特徴づける農産物を、何人もの高齢小規模農家が出荷していますから、この人たちに活躍してもらえる支援も不可欠です」。会員などによる農作物の栽培管理や収穫の支援などの仕組みを、くるみの里が独自に整え、道の駅を支える地域のシニアの力を活かしています。

取材協力

有限会社 道の駅雷電くるみの里

住所

長野県東御市滋野乙4524-1

電話番号

0268–63–0963

人気の記事

あわせて読みたい